サードキャリア

【連載】「選手ではなく人として―」元日本代表が語る大学ラクロスで養われる3つの素養(3/3)

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こんにちは。

memeに3連載を寄稿させていただいています、元ラクロス日本代表の柴田陽子です。

これまでに、以下2つの記事を書かせていただいて、今回が連載の最終回となります。

 

【第一弾】「危機感と五輪への期待」元ラクロス日本代表が綴る、社会人ラクロス団体SELL立ち上げの背景(1/3)

【第二弾】社会人ラクロス団体SELL立ち上げの狙い、ビジョン、そしてこれから(2/3)

 

第一弾では、社会人になってからも10年以上ラクロスに関わり続けている私が、社会人ラクロス団体SELLを立ち上げるに至った背景について説明させていただきました。

第二弾では、そのSELLの立ち上げの狙い、どういうビジョンを持って生まれたのか、そしてこれからどのような活動をしていくかを語らせていただきました。

 

この連載を締めくくる今回の第三弾では、(おもに大学の)ラクロスで、選手にどのような素養が培われるのかというテーマで私なりの仮説を立ててみたいと思います。ラクロスによって培われる素養が社会にも認められるのであれば、それこそ社会人ラクロスももっと活発になるのではと思っています。

 

大学ラクロスの魅力 ― 養われる3つの素養 ―

SELLの代表を務める傍ら、私は青山学院大学女子ラクロス部のHCを23歳のときから務めており、今年でちょうど10シーズン目になります。

この10年間、変わらない信念を一つ持ってやっているとすれば、それは「ラクロス選手としてよりも人として成長ができる組織にする」ということです。

ラクロスの結果だけ見れば10年間成功よりも失敗のほうが多かったですが、自分自身が日々仕事を通して学んだことを常に還元しながら、社会に出てから必要な能力が自然とつく長期的目線での組織づくりを心掛けてきました。

 

青学では頻繁にグループワークやプレゼンの時間を確保し、学年関係なくみんなの前で発言することを習慣化しています。私もそこに時間が許す限りフィードバックします。

また、例えばタイムアウトの90秒やハーフタイムの10分のように限られた時間の中で誰に何を尋ねるか、自分自身が何を伝えるか、普段の練習の反省タイムの発言などからもそんなことを常に考えるきっかけを与えるようにしています。

それだけでも、ただコーチから与えられたメニューをひたすらやっている2時間の練習やミーティングよりも遥かに個人で考え、仲間と話し合い、質の高い2時間を過ごすきっかけづくりにはなっていると思います。

 

私は、ラクロスの結果以上に、人として得るものが多いのが大学ラクロスの大きな魅力だと思っています。

大学ラクロスは、社会に出てから必要な能力が身に付き、また、人としての成長も促される素晴らしい環境だと思っています。上述したことはほんの一例ですが、私がそのように思うに至った大学ラクロスの特徴は大きく3つあります。

 

  1. 「定着した常識」が存在しない
  2. 「学生主体」の組織運営
  3. 「ソーシャル力」が重要

 

それぞれ詳しく見ていきましょう。

 

「定着した常識」が存在しない ― 自分たちが5年後のラクロスの常識を創る ―

「定着した常識」が存在しない』というのは、まだまだ日本では歴史の浅いスポーツであるラクロス特有の特徴であると思っています。

 

私が大学生だった頃に当たり前だと言われていた戦術や練習が、ラクロス界では今やもはや時代遅れです。

他の伝統的なスポーツと比べると考えられないような速さでルールが変わり、道具も進化し、そして一世を風靡する戦術までもが絶え間なく変化しています。ラクロスとはそんなスポーツです。

 

だから、大学ラクロスでもそんな「進化力」とでも言うべき力が非常に強く求められるのです。昨年までと同じことを練習していてもだめ。常に時代を先取りするような新しいメニューや戦術、技術を追い求めるベンチャー的精神が必要となります。

そういった意味では、ラクロスではいい意味で「当たり前を疑う」ことがカルチャーとして根付いています。

 

もしかしたらもっといい練習方法があるかもしれない

もっといい戦術を思いつくかもしれない

 

SELLでも青学でも、日々そんなことをみんなで自問自答しながら活動しています。発展途上のスポーツで大学から始める人が大半であるからこそ、既成概念にとらわれず色々な経験スポーツの文化を持ち込みながら自分たちで創り上げていけることこそが、日本のラクロス文化の真の魅力だと個人的には思っています。

 

私は青学の新入部員に、「5年後のラクロスの常識を創る」というラクロスの魅力を必ず説くようにしています。

5年前では考えられなかったことがいまは当たり前になっていて、今から5年後の当たり前は逆にこれから入学してくる全員が創る可能性を秘めた未来。

そんなことが言えるスポーツは大学レベルではなかなかないのかなって思っています。まだまだ発展途上のスポーツだからこその課題がそこに存在しながらも、私がラクロスというスポーツが大好きな大きな理由もそこにあります。

 

「学生主体」の組織運営 ― 船の船長と船員は学生 ―

撮影:梅田朗江

昨年の青学の主将が「自分は青学ラクロス部という船の船長でしゅんさん(私)は方向を示してくれるコンパス」という話をしていて、いい表現だなと思ったのを覚えています。

 

大学ラクロスにおける大きな特徴はここだと思います。いわゆるマイナースポーツといわれる競技であるからこそ、私のようなヘッドコーチという立場の人でも基本的には専属でコーチをしている人はほとんどいません。だからこそ、私は船長にはなれないのです。

私には、大学生よりも少し知識と経験があるので、それを活かして船が進む方向を定め、その道をみんなに示すことはできます。でもどんなに頑張ったって、1日10時間別の仕事をしながら、加えてSELLの代表をしながら、学生が費やしている時間を青学ラクロス部に費やすことは無理です。

船は船長を筆頭に、船員である全選手で進めるしかないのです。それがほぼ全大学のラクロスチームが置かれている状況であるが故に、「学生主体」の大学スポーツの代表格として企業からも注目されているわけです。

 

加えて、青学もそうですが、マイナースポーツだからこそ、なかなか学校の施設なども簡単には使用できず、始発で練習場に向かうのは当たり前、予算をやりくりしながら公共グラウンドを確保するのも学生の仕事、そして新規グラウンドの開拓や交渉まで学生がするという劣悪環境だからこそのサバイバル力が自然と身につくのです。

実際、この「学生主体」と言われるカルチャーの中で鍛え上げられてきた組織運営面のエースや縁の下の力持ち的な存在の選手たちが卒業して多くの企業で活躍しており、あるビジネス週刊誌において「人事が選ぶ欲しい体育会部活出身者ランキング」でラクロス部が1位に輝くほどビジネス界においてラクロスが高く評価される大きな要因にもなっているわけです。

 

青学でも主将や技術幹部などとは別に、組織運営幹部が存在し、その下に15以上の係が存在します。

5年前はここまでの係はなかったのですが、会社が事業を拡大するのと同じように、自分たちが目指す組織像を追い求めた結果、部員数と比例して自然と係も増えていき、また、今では会社と同じようにそのシーズンの注力事業も存在します。

昨年であれば青学の場合はSNSと会場応援の見直しを筆頭に青学ブランドの再構築が大きな課題で、その課題に対して1年かけて選手がアプローチしていく姿は、本当に社会に出ても通用するなと思う場面が多く感心しました。

SELLの選手でもそうですが、マイナースポーツであるが故の、グラウンドがない、競技を知られていない、応援に来てもらえない、そんなことが日常茶飯事であるからこそ、もっと知ってほしい、もっと環境を改善したい、そんな想いが恵まれた環境に慣れている選手よりも強いのです。

だからこそ、与えられた環境に満足するのではなく、主体性をもって自分たちから動いて何かを変えていくことを大学時代から自然とやっている選手が多いですし、それをできる環境があるのが大学ラクロスの魅力だと思っています。

 

「ソーシャル力」が重要 ― 多種多様なな部員が集まるからこそ求められるモノ ―

ラクロスが他の大学スポーツと一線を画す大きな特徴はその部員数の多さとその中の初心者の割合であると思います。

 

青学の場合、昨年度の部員数は約100名、その中でラクロスを中学または高校からやっていた選手は1割以下の7名、そしてスポーツ推薦で入学した選手はわずか2名です。

他の大学スポーツでは多くの部員がスポーツ推薦で入学をしてきたり、必ずしもスポーツ推薦でなくても、大半が高校までにそのスポーツを経験してきた上で入部してきます。ラクロスのように9割以上の選手が初心者というスポーツは大学レベルではなかなかないように思います。

だからこそ、実際ラクロス部には色々な選手が集まるのです。

必ずしもラクロスだけに4年間を費やしたいという人が全員ではなく、様々なバックグラウンドから様々な想いを抱いて入部してきます。

小学校から高校までずっと一つのスポーツに熱中していて大学からでも日本代表を目指せることに惹かれて入部したという体育会系女子もいれば、高校までは文化部だったけど新しいことにチャレンジがしたくて入ったという選手もいます。

スポーツ推薦入学者が少ないからこそ、文武両道を目指す学生が多いことも社会的にはラクロスの評価を上げている一つの要因になっています。

 

要するに、必ずしも自分と似た価値観の人たちとばかりと高め合っていけばいいのがラクロス部ではないわけです。

様々な価値観の人が集まる中で互いに認め合い、同じゴールを目指して協働していかなければいけない。まさに社会に出て、会社という新たな組織で求められるような能力を自然とつけられる環境が大学ラクロスにはあるのです。

2017年の女子日本代表でアシスタントコーチを務めていたころに、佐藤ヘッドコーチから選手に求める5つの能力という話をされました。

まず3つはスポーツでもよく聞く心技体(メンタル、テクニカル、フィジカル)の能力で、4つ目は戦術理解能力(タクティカル)。そして5つ目は社会性(ソーシャル)の力でした。

この中でも佐藤HCは、2週間以上の共同生活をしなければならないW杯に参戦するメンバーにおいては、このソーシャル力を一番重視するといっていて、すごく納得できたのを覚えています。

でもこれって、毎日一緒に仕事をしている職場では、より一層過ごす時間も長いですし、同じように言えることですよね。仲間とどれだけ気持ちよく過ごせるか。嫌な想いをさせるメンバーが一人でもいるとそれだけでチームとしての生産性は半減する。

それはW杯メンバーであろうが、大学ラクロス部であろうが、会社であろうが変わらないと思います。

ラクロスは色々なバックグラウンドの選手が大人数入部してくるという特殊な大学スポーツであるからこそ、このソーシャル力を当たり前に鍛えられる環境にあるわけです。

社会に出て10年、私は今でもこの力がラクロスを通して培った最も大事な能力だと思っています。

 

最後に

以上、3回に渡ってラクロスへの想いを長々と綴らせていただきました。

第一弾で説明した通り、私は現在某大手広告代理店にて東京オリンピックの仕事に携わっています。

今、オリンピックとパラリンピックの全55競技、71種目を知る機会があるからこそ、もう一度改めて、ラクロスを選んでよかったなと思っています。

今回書いたようなラクロスならではの歴史、カルチャー、その全てが今の私を創り上げてくれた一部であり、ラクロスという競技以上にそういった部分に魅力を感じているからこそ、働きながらヘッドコーチを10年続け、そしてSELLを立ち上げた自分がいます。

この先でラクロスがどのように進化をしていくかはわかりませんが、この投稿を読んでくれた一人でも多くのラクロス出身者がもう一度ラクロスの魅力を再認識て社会で活躍してくれたら嬉しいですし、ラクロスを知らない一人でも多くの方がラクロスに興味を持ってSELLのイベントや社会人クラブ、大学のリーグ戦に足を運んでくれたら幸せです。

2028年のロス五輪が訪れたときには、ラクロスというスポーツの社会的価値がもっと日本の中であがっている世の中を創っていけるよう、微力ながらこれからも自分ができることをやっていきたいと思っています。

社会人ラクロス団体SELLを、そしてラクロスを、これからもよろしくお願いいたします!

 

 

Lacrosse Plus 写真撮影者:梅田朗江

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