サードキャリア

クラスメイトとのディスカッションから見えた日米における倫理観や価値観の違い――MBA留学と米国ラクロス協会インターンを経験した”Joe”さんに聞く、日米スポーツの違い(2/3)

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【第一弾】
Marylandでの衝撃「当たり前のことを手抜きせずに全力で完遂する」
――MBA留学と米国ラクロス協会インターンを経験した”Joe”さんに聞く、日米スポーツの違い(1/3)

【第二弾】
クラスメイトとのディスカッションから見えた日米における倫理観や価値観の違い
――MBA留学と米国ラクロス協会インターンを経験した”Joe”さんに聞く、日米スポーツの違い(2/3)

【第三弾】
世界トップクラスの「フェイスオフ」。その技術と思考から考察する日本人としての世界における戦い方
――MBA留学と米国ラクロス協会インターンを経験した”Joe”さんに聞く、日米スポーツの違い(3/3)


視点と価値観について

US-Lacrosseでの練習風景

II 仕事観について

1.日米での「仕事観」の異なりと「倫理観」の立ち位置

 米国のMBAで幾度となくクラスメイトとディスカッションを繰返し、グローバルスタンダード、とはいかないまでも欧米のビジネスカルチャーを肌で感じて日本に帰国すると、日本のビジネスカルチャーとの間に違和感を感じることもある。優劣をつける意味ではなく、ビジネスの世界で生き抜いていくための知恵という観点で少し書いてみたい。MBA在学中(卒業間際)にこんなブログを執筆したことを思い出し、改めて読み返してみた。日米それぞれのビジネス界における「倫理観」の立ち位置と期待される効果についての私見を述べたものだが、実際に日本のいわゆる大企業で勤務する今でもその感覚にあまり変化はない。

2.米国の仕事観と倫理観

 少しその流れは緩やかになった印象はあるが、米国のビジネスは利益を追求しそれを確固たるものにすることに重きを置く。裏を返すと利益偏重になっていることが多い。(無論、これは数多の企業が生まれては消えていく超競争社会だからこそだが。)この利益追求が度を過ぎると、顧客を無視して不合理に利益が追求される利益至上主義に陥る。そして、利益至上主義に陥った企業も自然に淘汰されていく、というのが米国のマーケットだ。米国において、「倫理観」は、この利益至上を回避し、利益偏重を牽制し、顧客満足の追求や社会的責任の全うをしっかりと果たす企業体を構築し維持していく役割を担っていると感じた。

3.日本の仕事観と倫理観

 米国とは対照的に、日本は(特に大企業は)とことん考えてとことん準備し、利益の創出よりも、時として損失を出さないもしくは減らすことに注力する。いわゆるリスク低減・リスクマネジメントを重視するのが日本企業の特徴で、じっくり過ぎるほど吟味して、時間・労力・お金といった様々な面で多大なコストをかけて検討する。ただ、これも限度が過ぎると、いつしか「世間一般」「客観的」な尺度での検討が、知らず知らずのうちに「会社独自の常識」という尺度での検討に基準が移ってしまい、「一昔前」の判断基準(いわゆる前例主義)や「意思決定層の一存」という判断基準(「上層部のご意向」主義)といった「陳腐化・閉鎖的」な意思決定パターンに陥るケースも多い。日本における「倫理観」はこの「陳腐化・閉鎖的」な目線を持つことを牽制し、客観性と広い目線の下での意思決定を担保する役割を担っていると私は感じている。

4.中国の仕事観

 参考までに、MBAに加え現在の担当業務(化石燃料取引)を通じて見えた中国の印象(完全なる私見)を紹介すると、「業務品質は雑。失敗が許容される、だからこそ積極的に挑戦する。」というのが彼らの姿だ。もちろん中国国家を窮地に立たせるほどの失敗は許されないが、積極的に挑戦した結果としての失敗は許容されるし、だからこそ多少雑な状態でもどんどん物事が前に進んでいく印象が強い。中国の中で「倫理観」がどのように働くのか、まだ私見を持てるほどの情報量はないが、少なからず、日本で世間が偏見として持っているような傍若無人さは彼らにはなく、むしろ全うに正面からタスクにぶつかっていく印象が強い。

【III. 個々の価値観】

ここまでは企業レベル・組織レベル、という目線で見てきたが、個々人の価値観を比較してみるとどうだろうか。

1.欧米文化圏の人たちの価値観

Marylandラクロス部での集合写真

 アメリカ・ヨーロッパやオーストラリアといった欧米文化圏の人たちは、基本的にオンとオフのメリハリがすごくハッキリしている。日中は仕事に集中するが、ビジネスタイムが終わると一気にオフに切り替え、家族との時間やアフター5の時間を100%楽しむのが彼らの姿だ。また、よく言われているように、欧米文化圏の人たちは「1週間後にビジネスアイディアを検討して提出せよ」という課題が与えられれば60%~75%程度の出来のものを15案持ってくる。各案の完成度を高めることよりも、可能性が少しでもあるアイディアを出し切ってそれを試すことに価値を置く、いわゆるOutput重視の考え方だ。そして、私と同世代(30代前半)の人たちでも、実力次第ではかなりの額の取引を決定する権限を与えられており、スキルや実力は年齢に比例しない、という感覚が一般的である。それ故にキャリアチェンジ(転職)には抵抗はなく、むしろ高いレベルにステップアップできるのであれば能動的に進んで次のステップに進むことが多い。彼らにとって、自分のキャリアは自分で作るという感覚が当たり前なのだ。仕事において最先端のIT環境を導入しクラウドを駆使したデータの保存やオンライン会議も「当たり前」のものとして、年齢を問わず自然と仕事の中に組み込まれている。

2.日本人の価値観

 日本人は、基本的にオンとオフのメリハリが苦手である。大企業では働き方改革でそれなりに改善されたとはいえ、タイトな出社時間とルーズな退社時間が依然として基本設定として存在するという話はよく聞く。日本人は、「1週間後にビジネスアイディアを検討して提出せよ」という課題が与えられれば90%~99%の出来のものを2つか3つ持ってくる。「とりあえず」といったレベルのアイディアは発案者が自発的に排除し、実現可能性が一定以上のアイディアが数個並ぶのが一般的である。これはいわゆるInput重視型だといえる。年功序列の実態像も残っており、自己犠牲ともいえる精神で会社に貢献することで会社から評価を受ける、という風潮が企業ごとに濃淡はあれど依然として拭い切れていないのも事実。それ故に、一旦企業に入ると視野の広がりはさほど見られず、自分のキャリアを自らで作るという感覚も芽生えづらい。ITの導入についても、欧米のそれと比較すると明らかに遅れており、稟議が意思決定システムの一翼を担っていることも相俟って未だに紙を使った業務が多く、業務の効率化がなかなか進んでいない。(ちなみに、稟議を用いた意思決定の仕組みをMBAのクラスメートに説明した際は、理解してもらうのに15分以上かかり、最後は「Wow. That’s a waste of time.(それは時間の無駄遣いだね)」と驚きと同情のリアクションをくれたことは印象に残っている。)

3.中国人の価値観

 中国人のうち、国際社会と接点を持ちながら業務に従事している中国人は、非常に勤勉である。良い意味で「国を背負って仕事をしている」という自覚も生まれやすく、「失敗は次への糧」と受止めて前向きに且つ真摯に仕事を進めていく印象が強い。そして、何よりもそういった仕事を任される中国人は抜群に頭が良い。このような状況の中で、20代・30代の日本人はどのようにプレゼンスを発揮していくべきなのか?何を強み・弱みと捉え、どのように世界で活躍していくのか、それを日々意識していくことがこれまでよりも重要になってくるのは間違いない。

(つづく)

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